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建て増ししようにも土地がない

2015年9月18日「金曜日」更新の日記

2015-09-18の日記のIMAGE
寝室のテーブルでは、どう撮ってもベッドが写り、ページの趣旨と違いそうだし、食堂では、背景となる本棚の脇に冷蔵庫あり、電子レンジありで、妙な図になってしまう。そうした事情をことこまかに話し、「というわけで、現実的には難しいと思いますが」と言っても、相手は、「いいんです、いいんです、かえって生活感のある方がページにバリエーションが出て」少しも動じない。電話口で唸った。狙いはわかるが、ものには限度がある。おそらく彼ははじめて電話してきた人だし、正しく認識していないのだ。以前も似たようなことがあった。新聞社の人が「お宅でお話兼お写真を」と強く主張する。「カメラマンの方がお困りになると思うんですけれど」「彼らはプロですから」そこまで言うので、「ほんとーうに、狭くて汚いですけれど、いいんですね」と念押しして来てもらったところ、若い写真部員の男性は、「ぼ、僕らのアパートと変わりないんですね……」と絶句していた。ほんとうに撮りようがなかったようで、寝室との間の扉を開け、寝室のベランダから引きに引いて、かろうじてフレーム内に収めていた。ベランダから後ろへ引っくり返りそうな不自然な体勢で苦労している彼に、同情するよりも、(だから言っただろう)と冷ややかな怒りがこみ上げてきたのであった。今度の彼も、私の言葉をあくまでも「謙遜」の範囲内でとらえているに違いない。そう考え、よくよく説明してご辞退申し上げたのだった。だいたい、あのてのグラビアを見るたびに驚くのは、蔵書量もさることながら、それを可能にするスペースが、家にあることだ。写真の下の文章には、「重さで床がたわんできたので、補修しました」「壁という壁を本棚にしましたが、それでも収まりきらず、建て増ししました」などの苦労談が語られる。が、建て増ししようにも土地がないのが、多くの人の現実では。のTさんは別格としても、同じ文をひさぐ職業で、(どうして、こんなにたくさんの本を所有することができるのだろう)というのが、昔からの謎なのだ。

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